秋の気配

記録的猛暑の中で夏休みもとらずに走り続けた2週間。
一息ついて帰宅の途につく。
玉城を出て伊勢道に乗るころには陽が傾き、空が輝きはじめる。
風が吹いて、金色に染まった稲穂の海を揺らす。
雲はもう秋の気配。
鈴鹿サーキットでは、夕焼け空にバイクの轟音がこだましている。
↓今日は久しぶりにNikonのコンパクトデジカメで撮影。

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帰りの電車で「水滸伝」5巻を読了。
寄り道が多く、なかなか読み進まない。
水滸伝 5 玄武の章 (集英社文庫 き 3-48)
5巻の後半では、ムイカリエンテが愛する英雄楊志が死ぬ。
宋建国の英雄楊業の血を引き、二竜山・桃花山の総隊長として数千の人材を育成し
梁山泊を側面から支え続けた豪傑。
官軍の送った150人もの精鋭の暗殺者とたった一人で対峙する。

なにかが、近づいてきた。凶暴な、なにか。この庵に、じわじわと近づいてきている。
馬で駆けられる。楊令と済仁美がいなければ...(略)
「男だ、楊令。恐れて母上を困らせてはならん。しっかり眼を開けていろ」「はい」

間断なく襲い来る数知れぬ敵を、次々に斬り倒しながら、楊志も少しずつ傷を負っていく。

頭上。剣。跳躍した敵。斬り上げ、次の瞬間、横から出された剣を弾き飛ばした。
敵の攻撃に間断がなくなった。三人四人が絶え間なく襲ってくる。(略)
いきなり矢が射掛けられた。十数本が同時だった。腿に一本突き立ったが、
弓を使っている者たちの中に楊志は駆け込んだ。(略)
胸に矢が突き立ってきた。それも楊志はへし折った。躰の底から、力は湧き続けている。
苦痛もなかった。ただ、時々視界が白くなる。ほんの一瞬だろう。
矢。飛んでくるのが見えた。剣で払っていた。正面の敵。斬り降ろした。背中を斬られた。
楊志はさらに駆けた。叫んでいる。地が、樹木が、天が。また、口から血が噴き出した。
視界が白くなった。それでも躰は動いている。
ふり返る。楊令。済仁美に庇われるようにしながら、顔だけこちらにむけていた。
眼が合った。笑いかけようと思った。笑えたかどうかは、よくわからない。
父を見ておけ。その眼に刻み付けておけ。
地を這うように斬撃がきた。かわしもせず、楊志はその男を頭蓋から両断した。

側近の石秀が駆けつけるまで、楊志はひとりで戦いそして果てた。
楊志の遺体の前で、石秀は楊令に語りかける。

「楊令殿。父上は死なれた」「闘って、楊令殿を守り抜いて、死なれた。母上もまた」(略)
「武人の中の、武人であった。このような人を、俺は知らん。あの庵でも、
敵は恐らく百を超えていたであろう。それでも、負けなかった。
俺が行くまで死ななかったというのは、負けなかったということだ」
石秀は、楊令の肩に手を置いた。小さな肩だった。

近鉄電車から見える夕焼けを眺めながら涙が出そうになる。
総隊長を失った山塞に数万の敵が押し寄せる。
残された石秀・周通の葛藤・恐怖・覚悟...
内通者に撹乱されながらも、わが身を賭して山塞を守り抜く。

門が開いた。
全員を切り倒した時、騎馬が4騎飛び込んできた。その後ろには、歩兵の集団が見える。
石秀は雄叫びをあげた。騎馬はほかのものに任せ、歩兵の集団に飛び込んだ。
斬って、突いて、叫び続けた。門の外に出ている。敵は続々と連なっていた。(略)
「門を閉めろ」叫んだ。
矢が射られてきた。石秀はそれを剣で払ったが、二、三本が胸や肩に突き立った。
「門を閉めろ。命令だ」
力の限り叫んだ。親衛隊も半数は射倒されていた。
門が閉まっていく。石秀は、それを眼の端に捉えた。敵が押し寄せてくる。
大地をすべて埋め尽くしているように、敵が押し寄せてくる。
斬っても、斬っても際限がなかった。敵兵の海だ。
下腹をなにかが貫き通した。槍。柄を叩き斬った。突いてきた者も、同時に両断した。
また、なにかが体を貫いた。

遠くから敵の指揮官がその様子を見ている。

何か別の世界を、李富は見ているような気持ちだった。
戦場でもない。殺し合いでもない。
これだけの人数がいるのに、見えているのは、たったひとりの生きざまだけだった。
あの男は、なぜあそこにいるのか。なにが、あの男を生かし、輝かせているのか。...

敵さえ感動させるその雄姿。
北方水滸伝の英雄たちは、強いだけではない。
それぞれに、人間らしい苦しみや悲哀・不安や恐怖を抱えながら、
志のためにそれを超えて戦っている。志こそが人を生かし輝かせる。
小説の中に引きこまれ、英雄たちと共に悩み共に戦い。戦場を駆け巡る。
志をもって闘い、闘いの中で死んでいく。そんな人生でありたい。