「贅沢な青春」を読んで

血の騒ぎを聴け
自分にとって贅沢とは何だったか考えた。
イカリエンテの少年時代は、まさに日本中が大騒ぎするような高度成長時代。
我が家も、そこそこ裕福な生活をしていたように思う。
しかし12歳の時、父の独立とともに、生活は一転して貧しくなった。
食卓から肉が消え魚が消えていった。
わずかな米をほうじ茶で炊いて味をつけ、佃煮で食べるられればいいほうで
ひどいときは煮干をかじって、水で腹をふくらませて寝た夜もあった。
戦中戦後の動乱期なら、それもあたりまえだったのだろうが...
いつも暗澹たる気持ちで暗い目をしていたように思う。
しかし、そんな生活の中にも「贅沢」と思えることができた。
父が若いころに買ったクラシックのレコードが押入れの中から出てきたのである。
レコードプレーヤーにそれを乗せたとき、暗かった心に光が差し込むような気がした。
どんなに腹がすいていても、欲しいものが買えなくても
ベートーヴェンを聞くと勇壮な気分に浸ることができたし
バッハを聞けば貴族になったような気分になれた。
ショパンのピアノで甘い恋を想像し、
ラフマニノフのコンチェルトで生命の深淵さに泣いた。
レコードは買えなかったので、早朝のラジオ番組に合わせて5時に起き
クラシックを2時間聴いてから学校に行った。
ブラームスチャイコフスキーモーツァルト...
身なりはボロボロで、食事もままならないことも多かったが
心はいつも美しい音楽で満たされていた。
なんと贅沢な時間だったのだろうと思う。
文学に魅せられて、読書に没頭するのは高校生からであるが
これはまた後日に...