ペンダントヘッド

西に傾いた陽射しが、木立の隙間から差し込んで、青葉が光った。

五月の連休は、ほとんど家で過ごした。
出張生活をしていると、休みは家に居たいのだ。
本を読んだり、ブログを書いたり、ものづくりをしたり...
やりたいことは、いくらでもある。


午後になると散歩に出る。
都筑区に引っ越してきて20余年...建物はどんどん建って、人口も急増したが
最初から、広大な公園や緑道などが整備されていたので、
緑が多く、環境がいいことは、なんともありがたいことである。
総延長15kmにもおよぶ緑道は、最高の散歩道...


新緑の季節はとくに気持ちいいのだ。
そして、どこに出かけるでもなく、休日はゆったりと過ぎていった。



先日読んだ、志村ふくみさんの本の
緑色についてのお話が興味深かった。

色を奏でる (ちくま文庫)

色を奏でる (ちくま文庫)

緑は、自然のなかにこんなにもあふれているのに
草木染めで、緑色がそのまま染まるものはひとつとして存在しない。
緑色の葉は、ほとんどが鼠色に染まる。
これはこれで、四十八茶百鼠と行って、
日本人は48の茶色と100種類の鼠色を見分けることができるという意味で
非常に奥深いのだが...


さて、緑はどうやって染めるか...
刈安・くちなし・きはだなどの植物で染めた黄色い糸を藍甕のなかに通すのである。
他の色は「染まる」という表現だが
緑は「生まれる」と、志村さんは表現する。

 やはり、緑は生命と深いかかわり合いをもっていると思う。生命の尖端である。
 生きとし生けるものが、その生命をかぎりなくいとおしみ、
一日も生の永かれと祈るにもかかわらず、生命は一刻一刻、死にむかって時を刻んでいる。
とどまることがない。その生命そのものを色であらわしたら、それが緑なのではないだろうか。
    志村ふくみ『色を奏でる』   

ゲーテは、『色彩論』という著作のなかで、闇に最も近い色が青であり、光に最も近い色が黄色だと言った。
その闇と光...死と生が交錯するところで緑が生まれる。不思議な色なのである。

 もう一つの不思議は、藍甕の中に白い糸を浸すとはじめは茶がかっと色であるが、
竹の棒でキリキリと絞りあげて、手の力を抜いた瞬間、空気にふれた部分から、
目のさめるようなエメラルドーグリーンに染め揚ってゆく。
とみる間に目の前のエメラルドーグリーンは消えて、標色(はなだいろ)が生れる。
わずか数秒の間の変身である。あのひき揚げた瞬間の緑はどこに消え去るのだろう。
 彼岸の緑は、此岸の標色なのだろうか。表裏一体、この世にとどまる色としては、標色なのである。
とすれば、黄とかけ合せて生れた緑は、人の手をかりて生れた自然の色である。
緑が消えて、青になり、青が消えて緑になる。どこかで次元がすりかわるような不思議である。
 しかも青い色は、私たちがこの目でみるかぎり空と海の色である。
あの大海原の群青も、澄みわたる空の水浅黄も、手にとることのできない色なき色である。
あの海原を染め空を彩る青という色は、どこから射してくるのか。
天の彼方から射す光が三千世界を照らすとき、限りない色彩が生れる。
   前掲書

志村さんの、染め織り...そして糸を紡ぐことへの想いを読んでいると
人が手でものを作っていくということの尊さに心を打たれる。
何回かに分けて、彼女のことばもブログに残していきたい。


さて、ものづくりと言えば...
一時期凝っていたペーパーナイフ作り...
3月にさるお方にプレゼントしてからは、すっかり作らなくなっていたが、
以前、友人のお嬢さん、Mちゃんに大学の卒業と就職のお祝いにペーパーナイフを差し上げると約束していた。


3月に大学を卒業して、4月には彼女らしい会社に就職したのだが
まだ約束を果たしていなかったことを思い出し、木の端切れをケースから出して並べてみた。
しかし...考えてもみれば、ペーパーナイフなど使いもしないだろう。
そこで、不意にペンダントを作ろうと思いつく。
黄楊の木を取り出して、かたちを考えるがこれが思いつかない。
なんの変哲もないがハート形が無難だろうと思って作ってみた。


細かくてちょっと苦労したが、磨き方も東急ハンズでレクチャーを受けてきて
米ぬかから抽出した油を沁ませてから800番 1000番というペーパーで磨き込んでできあがり
金具も東急ハンズで買ってきて...なんとか形になった。
プレゼントを写真で出すというのは、どうかなと思うけれど...よくできたし
すでにFBにもあげてしまったので...


天真爛漫を絵に描いたような、かわいいお嬢さん...
いろいろとご苦労をされているのは、間接的に聞いてはいるが
微塵たりとも、そんなことは感じさせない。
いのちが澄み切っているのだ。
これまでにも本は何冊かプレゼントしてきたが
今回は、宮本輝先生の『いのちの姿』を一緒につけて差し上げた。
社会に出て、たくさんの苦労があるかもしれないが
ずっとあの笑顔を忘れずに、悠々として乗り切っていってほしいな。
周囲の誰からも愛されますように...願いをこめて...