べんがらの里

愛知県で2社訪問し、神戸へ移動...
神戸で一泊して岡山...


岡山の備前市での打ち合わせは15時からなので、
午前中は総社から吹屋へのドライブを計画する。


総社は、宮本輝の小説『約束の冬』の舞台のひとつ...
主人公の氷見留美子が、引っ越したばかりの家の近所で見知らぬ高校生から手紙を手渡される...

「空を飛ぶ蜘蛛を見たことがありますか?ぼくは見ました。 蜘蛛が空を飛んで行くのです。
 十年後の誕生日にぼくは二十六歳になります。十二月五日です。
 その日の朝、地図に示したところでお待ちしています。
 お天気がよければ、ここでたくさんの蜘蛛が飛び立つのが見られるはずです。
 ぼくはそのとき、あなたに結婚を申し込むつもりです。
 こんな変な手紙を読んでくださって、ありがとうございました。須藤敏国」

この敏国が空飛ぶ蜘蛛を見たのが総社の祖父の家の近くであった。



吹屋は、総社からさらに北東の山のなかに入ったところ...
「重要伝統的建築物群保存地区」に指定されている街並みは美しい。
 Wikipedia 吹屋

車がすれ違うこともできないような細い曲がりくねった道を上りきって着いた集落...
小高い丘から見下ろすと、深緑の山のなかに石州瓦の赤い屋根が連なっていた。
なんと美しいコントラストだろう。


ひとりで人影のほとんどない街の中を歩く。
ここは日本一のベンガラの産地として栄えたらしい。(ベンガラとは...Wikipedia
いわゆる赤錆と同じ成分なわけだが、
硫化鉄(Fe2S)を精製して、酸化第二鉄(Fe2O3)になり、朱色のくすんだような独特の赤ができる。


無害な顔料で、しかも耐久性に優れることから、建築物や衣類をはじめ、様々な染色につかわれている。
ここが栄えた当時、高級なものは、30gほどで米五升の価値があったという。


家々の塀や壁、そして柱がベンガラで染められており
屋根の石州瓦の赤い色と調和して、とっても美しい。
資料館を含む数か所の施設をまわる券を買って、ゆっくり歩いて回る。
ここには、宮大工も多く暮らしていたらしく、
建物の造りも独特で、細かい部分に凝ったつくりが見受けられる。



歴史の教科書は、そのほとんどが有名人の権力闘争で綴られているが
自分は、そういうことにあまり興味がない。
名もない庶民たちの、こうした手仕事に深い感動を覚える。


庄屋の家は、お城のような石垣をめぐらした御殿だった。
泥だらけになって働く庶民のうえには、いつの時代もこういう権力者があぐらをかいているものだ。


しばらく散策してから山を降り、総社へ...
『約束の冬』に出てくるのは、どこなのかさっぱり見当はつかないが
小説の場面を思いだしながら、高梁川沿いの田園地帯を走る。
空飛ぶ蜘蛛の季節は冬なのだが... 


15時に客先を訪問し、打ち合わせを終えて、岡山から新幹線で神戸に帰る。
神戸の夕食は何にしようかな〜と思いながら裏通りをぶらついていると
生田神社の脇に、バーのような雰囲気のカウンターだけの焼き鳥屋が...
店の名前は『うけ月』
入口のディスプレーもちょっとおしゃれなので、ふらっと入ってみる。
一番奥のカウンターに外人の夫婦がいるだけだったので、カウンターごしに店の人と話しながら
焼酎をいただき、焼き鳥6本と岡山のアスパラをいただく。 


美味いな〜
最近、神戸に泊まる機会も増えた(増やした?)ので、
いいお店が見つかってよかった。
今回は出張が長いので、深酒はせずにホテルに戻る。


おまけ
吹屋の写真