美を求める心

三重県二見浦で出会った藍さんから封書が届いた。
職人仲間で藍染の展示を行うとのこと...
彼女が会場に来れるのは、今日一日とのこと...
午後から浅草のアミューズミュージアムに向かう。


OLを辞めて、職人の道に入った藍さん...
草木染と機織りの修行をして、
二見の宿場町に古い旅館の建物を借りて店を始めた。
(こんなお店→http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/searchdiary?of=15&word=%CD%F5
プラントの仕事で数か月、二見のホテルに逗留していてぶらっと寄ったのは、2006年11月...
藍さんが店を始めて間もない頃だった。
昔は観光で栄えた町のようだが、最近は泊まり客が減ってしまい、店にいてもなかなかお客さんは来てくれない。
それでもこつこつと作品を作りながら、時を待った。
ここ数年は、職人のネットワークが少しずつ広がって、各地で展示をするようになり
新聞などでも取り上げられるようになった。
超おっとりした性格は、周囲の人を癒し安心させるのだと思うが
その心の奥にある、物作りへの熱い情熱と度胸には、いつも脱帽する思いである。


去年の6月に三重から奈良への一人旅をしたときにお店に寄ったので、半年ぶり...
会場に入ると、年配のご婦人方とあののんびりした口調で話をしている。
ごあいさつをすると「元気そうで安心しました」と言われる。
ブログを見て、いつも心配してくださっているようだ...
しばらく近況をお話をしてから、同じ会場で開催中の「田中忠三郎コレクション展」を観賞する。


田中忠三郎氏は、民族学者であり民具の調査・収集に奔走してきた人物。
私有する2万点以上に及ぶ民具・衣服などの貴重な日本のアンティークコレクションを所有しているという。
最初に目に飛び込んできたのは、BOROというコレクション。
青森の貧しい寒村では、布は非常に貴重なもので、
一着の着物を何世代にもわたって着るのは当たり前のことだった。
ほころびには継ぎ当てをし、過酷な風土から身を守るために粗い麻布を重ね合わせ、刺し子を施して補強し、
それでも使えなくなった布は裂いて、またそれを織る...

偶然であるが、今水上勉の『飢餓海峡』を読んでいて、
下北半島の貧しい山村で生まれた杉戸八重という女性の哀れな半生に胸を痛めていたので
その地方の貧しさが形になって目の前に現れたとき、に息苦しさを感じる。
しかし...じっと見ていると、そこに生きた人間の知恵とかぬくもりとかが、浮かび上がってくるのである。
写真撮影も、手を触れることもOKだったので、手触りを確認して、写真を撮る。

少しずつ色や柄の違った布を張り合わせてあって、離れてみるときれいなパッチワークになっている。
なんでも使い捨ての現代には想像もできないような、膨大な手間とそれを着た人々の様々な思いが、
そこにしみこんでいる。
ほかのフロアでは、晴れ着や仕事着の数々も展示されている。
暗く貧しい生活...すべて自給自足の大変な中でも、農作業が終わってから夜なべをして作る衣服は
機能性はもちろん外せないが、その中でも少しでも美しいものを着たいという女性の想いにあふれている。
織り柄や刺し子・刺繍の柄のなんと美しいことか...



なかでも南部ひし織の前掛けの色使いには、そんな思いが一針一針に込められているようで、実に美しい。

活き活きとした織物を興奮しながら見て回り、もう一度藍さんのところに寄って、立ち話をして会場を後にする。
帰りに、藍さんの手染め手織りのブックカバーをひとつ購入...
藍染はいいなと思いながら、なかなか手が出ず..藍さんの作品も、ほとんど買ったことがないので...。
帰りにM君に用事があって電話したら、たまたま近くにいるというので喫茶店で会う。
昼飯を食べていなかったので、禁断のケーキをひとつ...



おまけ

アミューズミュージアムの屋上から撮ったスカイツリー展望台...
コンパクトカメラで、このズームはすごい。