高校の同窓生Cさんから一昨日
メールで誘いがあり、
山手のKさんご夫婦が営むレストランに
ランチをしに出かける。
仕事の話になるのが恥ずかしいので
一瞬キャンセルしようかとも思ったけれど、
K君が行くというので、行くことにした。
女子4人..Cさん・Yさん・Hさん・Kさんと、途中近所に住むJさんが偶然来店
男子3人..K君 ムイカリエンテ、そしてT君
市の教育委員会勤務のT君は昼休みに関内から電車に乗ってランチだけ食べに来た。
12時に集合して4時まで...近況や思い出話しなど、とりとめもなく...
Kさんがお店に置いてあった卒業アルバムを持ちだしてきたので
32年前の写真を見ながら懐かしい思い出をたどる。
18歳のムイカリエンテは角刈りで...少し病的なくらい青白い顔をカメラに向けていた。
これという夢もないまま受験勉強だけに明け暮れていた一年間。
中途半端なまま32年が過ぎ去ってしまった。
昨日、I君から来たメールに「男盛り」という言葉が書いてあって...
本当ならば、いまが盛りの頃なんだと思い
同級生を見まわしてみても、社会でそれなりの場所で奮闘していることを思えば
挫折を繰り返した末に、振りだしに戻って一歩も踏み出せないでいる自分が
どこまでも情けなく思えてしまう。
所詮、つまらない嫉妬にすぎないのだろうな...
散会して地下の店から階段を上ると、青空が広がっていた。
JRと地下鉄を乗り継いで帰ると、昨日と同じ5時過ぎ...
昨日、K君に落ち込む時間の周期はあるのか聴かれて、応えられなかったが...
地下鉄の改札を出て西の空を見上げたとき
この時間に気持ちが夕陽とともに堕ちて行くことを自覚した。
梶井基次郎『冬の日』
- 作者: 梶井基次郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/11/10
- メディア: 文庫
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長い帰りの電車のなかでも、彼はしじゅう崩壊に屈しようとする自分を堪えていた。そして電車を降りてみると、家を出るとき持って出たはずの洋傘は...彼は持っていなかった。
あてもなく電車を追おうとする眼を彼は反射的にそらせた。重い疲労を引き摺ずりながら、夕方の道を帰って来た。その日町へ出るとき赤いものを吐いた、それが路ばたの槿の根方にまだひっかかっていた。堯には微かな身慄いが感じられた。...吐いたときには悪いことをしたとしか思わなかったその赤い色に。
夕方の発熱時が来ていた。冷たい汗が気味悪く腋の下を伝った。彼は袴も脱がぬ外出姿のまま凝然と部屋に坐っていた。
突然匕首(あいくち)のような悲しみが彼に触れた。次から次へ愛するものを失っていった母の、ときどきするとぼけたような表情を思い浮かべると、彼は静かに泣きはじめた。(中略)
街を歩くと堯(たかし)は自分が敏感な水準器になってしまったのを感じた。彼はだんだん呼吸が切迫して来る自分に気がつく。そして振り返って見るとその道は彼が知らなかったほどの傾斜をしているのだった。彼は立ち停まると激しく肩で息をした。ある切ない塊が胸を下ってゆくまでには、必ずどうすればいいのかわからない息苦しさを一度経なければならなかった。それが鎮まると堯はまた歩き出した。
何が彼を駆るのか。それは遠い地平へ落ちて行く太陽の姿だった。
彼の一日は低地を距てた灰色の洋風の木造家屋に、どの日もどの日も消えてゆく冬の日に、もう堪えきることができなくなった。窓の外の風景が次第に蒼ざめた空気のなかへ没してゆくとき、それがすでにただの日蔭ではなく、夜と名付けられた日蔭だという自覚に、彼の心は不思議ないらだちを覚えて来るのだった。
「あああ大きな落日が見たい」
彼は家を出て遠い展望のきく場所を捜した。歳暮の町には餅搗きの音が起こっていた。花屋の前には梅と福寿草をあしらった植木鉢が並んでいた。そんな風俗画は、町がどこをどう帰っていいかわからなくなりはじめるにつれて、だんだん美しくなった。自分のまだ一度も踏まなかった路...そこでは米を磨いでいる女も喧嘩をしている子供も彼を立ち停まらせた。が、見晴らしはどこへ行っても、大きな屋根の影絵があり、夕焼空に澄んだ梢があった。そのたび、遠い地平へ落ちてゆく太陽の隠された姿が切ない彼の心に写った。
日の光に満ちた空気は地上をわずかも距っていなかった。彼の満たされない願望は、ときに高い屋根の上へのぼり、空へ手を伸ばしている男を想像した。男の指の先はその空気に触れている。...また彼は水素を充した石鹸玉が、蒼ざめた人と街とを昇天させながら、その空気のなかへパッと七彩に浮かび上がる瞬間を想像した。
梶井基次郎の本は、ずっと前から手元にあったのに読めずにいた。
しかし...いま、こうして読み始めると、その美しさに呆然とする。
23歳の時に妹を結核で亡くし、自身も24歳で結核を宣告される。
その直後に不安と焦燥を描いた名作『檸檬』を発表。
『冬の日』は26歳で発表している。
日々血痰を吐き、迫りくる死への恐怖を感じながらも、生きたいと切に願う心。
大きな落日が見たいと、街を彷徨い、手の届かぬ天空に想いを馳せる姿。
七彩に輝くしゃぼん玉の儚さ... 透きとおるような哀しみ。
美しさを求める心があるかぎり、生きたいのだな...きっと