川は流れる

翌日からの仕事のため、奥多摩へ...
自宅から在来線で3時間
道のりが長いので八王子で途中下車。
駅の近くでランチをしようと歩きだすと
「とんかつ定食500円」の張り紙...
迷わず引き戸を開けて暖簾をくぐる。
『とんかつ ほし野』
店内は、昭和の大衆食堂の雰囲気。
とんかつ定食を注文。とんかつとキャベツだけでもいいのだけれど...
単品の注文はできないので、ごはんはちょっとだけにしてもらう。
肉厚は薄いが大きなとんかつ。
子供のころ家で食べたとんかつの、懐かしいような味がした。

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奥多摩駅には、まだ明るいうちに着いたので、旅館に荷物を預けて周辺を散策。
奥多摩湖から流れ出して数キロ、日原川と合流する地点。
切り立った山々の谷間を流れる川の水は冷たく澄みきっている。
紅葉前の緑を川面に映しながら、とどまることなく流れていく。
水の流れる音、鳥のさえずり...冷たく湿った空気...
自然は大きく、そして美しい。






下流のゆったりした流れと違い、ここは地形が複雑で緩急の差が大きい。
川面に落ちた木の葉の中にも、急流に乗って勢いよく流れていくものもあれば
流れからはずれてくるくると渦をまいて、いつまでも同じところを回っているもの
淀みにはまって動きが止まり、やがて沈んでいくもの...
一枚一枚が人間のようだな。
勢いをなくし、流れを見失い、どこに向かえばよいのかもわからなくなって
浅瀬に止まり、いまにも沈みそうな一枚の枯れ葉...あれは、自分だ。


働くことの歓びからも遠ざかり、
ただ腹を満たすためだけに、友人の世話になり厄介になっている情けない自分。
苔生した岩に腰掛けて、ぼんやりと流れを眺めているうちに、日が暮れて
瞬く間に、すべてが無明の闇の中に沈んでいった。
ただ闇の底で、川の流れだけがとどまることなく鳴り響いていた。