美しいもの

野山に春の気配が漂い始め..
また貴女に逢いたくなって、ここに来た。


去年も、そして一昨年も...
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20090317
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20080316
いずれも、失敗ばかりの人生に悩みながら...
雪が積もったような、柔らかく真っ白な花弁の傘の下で 風に揺れる貴女を見上げながら...
どれほど慰められ、どれほど勇気づけられたことか...


菜の花も桜も、確かに美しいけれど
僕は、なぜか貴女のことが気になってしかたがない。
足元に何台もの自動販売機を置かれ、枝は電線に挟まれて
遠くから見たら、あまりにも痛々しい姿ではあるけれど...
健気なまでのその姿を、僕は他のどの辛夷よりもうつくしいと思う。


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辛夷の花は、風雨で少し傷ついていた。
それでも、去年よりもさらに大きく枝をひろげ、純白の花を青空に向かって思い切り開いていた。

芸術脳 (新潮文庫)

内藤:鬱傾向にあるときでも、美しいものにだけは反応したりするということはありますよね。
どんな極限状態にあったときでも、そこで見たり感じたりした美しいもののことだけは鮮明に覚えていたりとか
茂木:あるある 戦場で見た夕陽の美しさとか、よくいいますよね。
内藤:いちばん厳しい状況にあっても美しいものを感じるというのは不思議なことだと思う。
以前「なにもいえないときも、ただ美しいといえた」という一文を書いたことがあるんですけど、
ずっと思っていることなんですよ。
   茂木健一郎著『芸術脳』より 世界と自分を結ぶ「なにか」を求めて...内藤礼さんとの対談

              
美しいものに触れることで、人は安らぎを覚える。
しかも、今自分が置かれている状況が厳しいほど..悲しいほど...その美しさが身にしみる。
しかし、その心と言うのは、他者と共有することはできない..つまり、その人だけのものである。

内藤:人の心の中にある美しいものは、見ることも触ることもできない。
記録することも留めることもできない。つまり、保存できない。
すごく瞬間的なものであったり、心の中の美しいものを見つけたその人にしかわからない。
その人が死んでしまえば、本当にあったのかどうかもわからないはかないものですよね。
本当に美しいものとはそういうものだって気がするんです。


いちばん美しいものは人間の心の中にあると思うから、
美術っているのは、ではなんだろうということになるのかもしれない。
人の心の中の美しいものを見つける仕事とか生活ができたらいいんだけど。

   前掲書

自分自身にとって美しいものとは何だろうと思い出を掘り起こす。
いくつかの忘れられない光景が脳裏に浮かんでくる。
それは人とは共有できないし、自分が死んでしまえば、消えていく。
内藤礼という芸術家を、ムイカリエンテは今まで知らなかったが...
すごい言葉を持っている人だと思った。
さらに、世界と自分を結ぶものについての対談は続く...

内藤:自分が望んだわけでもないのに、
ある日いきなりこの地上に投げ出されるように生まれてきて、
どういう運命が待っているのかもわからないままに
最後まで生きていかなくてはならないというのは
世界と自分を結びつけるなにかがないとやっていけない。
そのなにかってなんだろう、って(中略)
みんな探してますよね。自分の錨はなんだろうと。
それが仕事だったり、大切ななにかだったり、人だったり...
でも、自分がひとりになったときに支えになるようなものじゃないと難しいですよね。
自分がこうやって世界の中で裸で生きている、
ただ一つの心と体をもって存在しているってことのなかに
見つけださないと最後は厳しいことになると思う。
状況が変わっても、最後まで持っているほかないものは”自分”じゃないですか。
そしてそれがどんなものでも、眼前の風景。
自分が生きているということと世界があるってことの間に、
いろんな人との出会いがあり、出来事がある。
他者がいないと生きてはいけない。でも一方で、すべてないとしたうえで、
この地上で生きていくためのなにかを見いだそうと思うんです。

茂木:形になったものって、毀誉褒貶がありますよね。
そこで、でも、自分にしかわからないそのモノや成果を作るための時間をどう一生懸命に、
誠意をもって過ごしたかで、他人からの評価はわりとどうでもよくなる。
自分が胸を張って過ごせた時間ならそれでいいじゃないですか。自分の生きる糧になる。
他人を気にするんじゃなく、自分のやりたいように、自分に誇れる時間を作っていくということが
この地上に生まれてきた人間の"すごく大切ななにか"なのかもしれない。

どんなに寒さが厳しくとも、ここに立ち続けるしかない辛夷の大木。
そして、早春のこの短い時間に 思い切り花開き、人々の心に幸福をもたらす。
自分もまた、かくあらねばならないと、美しく咲きほこる花を見て思う。
ただただ、真摯に自分の道を...
どんなに厳しくとも逃げることなく、ダメなときも嘘いつわりなく...また、勝っても驕ることなく...


自分に誇れる時間を...花咲く日を目指して...


おまけ