『手袋を買いに』新美南吉

これまでは関西以西の仕事が多かったので
ずっと滋賀に滞在していたが
昨日は恵比寿のSビールに営業に行ったので
滋賀には戻らず自宅勤務。
大阪時代も東京には事務所がなかったので
自宅での仕事は慣れている。


夕方、東京でアポをとって一社訪問
久しぶりの東京...M君を誘って下北沢で待ち合わせ。
軽く一杯。お互いの近況を語り合う。


外に出ると、顔がこわばるほどの寒さ...急いで歩いて電車に乗り込む。
帰りの電車で新美南吉の短編を読む。
文豪さんへ。近代文学トリビュートアンソロジー (MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)

雪が降った朝...始めての雪遊びをした子狐が、お母さんのいる洞穴に戻ってくる。

「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、
濡れて牡丹色になった両手を母さん狐の前にさしだしました。
母さん狐は、その手に、はーっと息をふっかけて、ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら
「もうすぐ暖かくなるよ、雪をさわると、すぐに暖かくなるもんだよ」といいましたが、
かあいい坊やの手に霜焼けができてはかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、
坊やのお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、
雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮かびあがっていました。

新美南吉...小学校の教科書かなにかで読んだくらいの記憶しかないが...
いまこうして読むと、なんとも温かく優しい文章である。
29歳という若き命を落とすまでに、こうした童話を多く遺している。
童話というと子供が読むものと思ってしまうが...大人も読むべきだな〜
子供にも理解できるし感性を豊かにしていくけれど
言葉の美しさは、大人になって読むとさらにその凄さがわかる。


子狐は途中からひとりで町に行って、手袋を買って戻ってくる。
子供とのやりとりの後で、母さん狐がつぶやく一言が、心に深く沁み行って温かくなった。

「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」