悲しい食事

膝の痛みを癒す暇もなく、一週間走り続けてきた。
整形外科では、湿布を貼るだけの手当てしかできないので
ネットで調べて、整体院に初めて行ってみる。
普通の家で営業する、相鉄線沿線の小さな整体院。
脚の痛みの元は腰の骨のゆがみにあるとのことで、
それを矯正する体操(ヨガのような)を教わる。

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午後から工学院大学で会議。横浜から久しぶりに東横線に乗る。
隣の席に座ってきた美少女。中学生くらいだろうか..
母親が彼女の前に立っている。なぜ、母親が立っているのだろうと思った瞬間。
少女が膝の上でコンビニ袋の口を少し開く。
中に入っている小さな"カツ丼弁当"が視界の端に入る。
割り箸を手にしたものの、周囲の目が気になるのか蓋まで手を伸ばしても開けられない。
周囲の人は気がついていないようであるが、母親は知らぬふりをしている。
そのまま10分ほど経過し、菊名駅を発車したとき、少女の手が弁当の蓋をそっと開ける。
カツ丼の匂いが周囲に拡がる。
離れている人から見れば、少女は袋の中から何を口に運んでいるか見えない。
袋の中に箸を差し込んで、下を向いたままカツ丼を黙々と食べている。
休日の渋谷に向かう電車の中は、若いカップルや家族連れで混み合っている。
何故、少女が電車で弁当を食べなければならないのか?母親は知らぬ顔をしているのか?
母親が座らずに娘を座らせたのは、弁当を食べさせるために違いない。
身なりは質素で、弁当を乗せている少女の布の手提げは擦れて穴があいている。
その光景は、なんとも言えない悲しみに包まれていた。
少女は、いつもこんなに悲しい食事をさせられているのだろうか?
食べ終わって袋の中に箸をしまったと同時に電車は中目黒の駅で停まり、母子は降りていった。
立ち上がった瞬間に見た少女の横顔は、ぞっとするほど美しかった。