『ファウスト』

一週間の疲れを貯めて週末の新幹線に乗る。
今日は頭が妙に冴えて眠れず、所持している数冊の中から
ファウスト』を取り出す。
ファウスト〈第一部〉 (岩波文庫)

第一部634行目〜
われわれの精神が身につけた最高の性質にも、
あとからあとから、精神には縁もゆかりもないものがまつわりつく
俗世の富貴を手に入れると、
真理への努力は無意味に見えてくる。
生き甲斐を感じさせてくれた諸々の理想も、
現世の雑踏の中ではいのちを失ってしまうのか。

空想が一度は大胆に羽ばたいて
意気揚々として永遠に向かって進んでいっても
時の渦に呑まれてどの幸福も得られないとなると、
狭い場所に身をちぢめてしまう。
すると取り越し苦労が胸の奥に巣食って、
隠れた苦痛の種子を蒔いて、
落ち着きなくからだを揺すり、生活の悦びと心の平安を掻き乱す。
憂いは次々と仮面を変える。

現実の生活は大事であるに違いはない。
しかし、現実に捕らわれすぎ、たとえば仕事に没頭しすぎて
「何のため?」という部分を見失えば
精神は荒廃し、生命は萎縮してしまう。
小我を超えた高い理想。
青年の心を失ってしまえば、衰退の道しかない。
自分は人間として向上しているのか?
それとも現状に甘んじて停滞・後退しているのか?
自己診断する必要があると思う。
しかし、
天才ゲーテが60年を費やして仕上げた文章は
なんと重厚で深いことか...