宮本輝『草原の椅子』

読み返してみる。
草原の椅子〈上〉

怖がって生きるのも一生、安心して生きるのも一生
少々何があろうとも、安心しているという修養を、
自分もまた努力して己に課さなければならないと憲太郎は思った。
安心しているということは、能天気に油断しているというのとは
まったく違う。
物事にかしこく対処し、注意をはらい、生きることに努力しながら
しかも根底では安心している...。
そういう人間であろうと、絶えず己に言い聞かせることだ...。

ロシアの作家、チェーホフが、かつて恋人だった女に送った手紙にもそう書いたのだったな
ごきげんよう。なによりも快活でいらっしゃるように。
人生をあまりむずかしく考えてはいけません。
おそらくほんとうはもっとずっと簡単なものなのでしょうから


不安な社会。不安な人生。誰しも、一寸先のこともわからない。
しかし、何が起ころうとも一歩高い境涯に立ってみれば
すべてが簡単に、そして安心して見られるのではないだろうか。
そういう姿勢になれるためには、確かに修養が必要である。
真に強い人間になることだ。
人間として生きる姿勢を、どれだけ宮本文学から学んだことか...