阿寺の七滝

振り返ると、見事な入道雲が山の向うに立ちのぼっていた。
田園を抜け、細い山道を縫ってたどりついた滝への登り口の
広い駐車場には車が1台
小さな茶店の奥で、老婆が五平餅を炭火にかざして焼いていた。


愛知県北西部 豊川の上流にある阿寺川
蒲郡へ向かう途中、時間が早すぎたので、新東名を浜松いなさICで降りて
下道ルートに切り替え、途中で看板を見つけてここに来た。


車を降りて、清流に沿って細い坂道をのぼっていく。
イワタバコの群生を見に来たらしい老夫婦とすれ違った以外に人の気配はない。

雨が降っていないせいか、情けないほど細いその川は、
所々にある急な落差で水がしぶきをあげているほかは平らかで
その静かな川面には、森が映りこんでいる。

ここに川ができてから、どれほどの年月が経ったことか...
途方もない時間の流れのなかで、途方もない生命を潤し
途方もない生死を見つめてきた川は、今日も黙したまま森を見上げている。


やがて辿り着いた滝は、苔生したなだらかな斜面を滑り落ちるような
なんとも穏やかな姿をした滝...


滝壺も浅く、澄んだ水底には小さな魚が木漏れ日を浴びながら泳いでいる。


木々が時折吹く風に揺れ 鳥のさえずりが遠くから聴こえる
滝はさらさらと絶間なく落ちている。
森は囁き、森は唄う


タゴールの詩を想い
香しき森に抱かれて、愛しき友の幸福を祈る。

タゴール詩集―ギーターンジャリ (岩波文庫)

タゴール詩集―ギーターンジャリ (岩波文庫)

今日 春醒めぬ 門口に
汝 面(おも)包み 萎えし生命に
彼をな欺きそ
   今日 心臓(むね)の花弁(はな)開け
   今日 自他の隔て忘れよ
   この歌 谺(こだま)する虚空(そら)
   汝の香 浪立たしめよ
   外(と)の方の世に 行く末知らず
   甘露を あまた撒き散らせ



いと痛き 苦しみ 森に
今日 響く 若葉若葉に
虚空遠く 誰を 待つとて
今日 大地(つち)は 忙(せわ)しく 装(よそ)ひなす
   わが生命に 南風吹き
   門(かど) 叩き 誰を求むや
   この香(かぐ)わしき夜は
   誰(た)が足音聞きて 大地に醒むるか
   やよ 美しく 愛(は)しき友よ
   汝 声強く 誰を喚(よ)ぶや

         タゴール『ギーターンジャリ』55段 渡辺照宏

自他の隔てを忘れ...
汝の香 波立たしめよ...
美しい詩だな

 (お気に入りの一枚↑)



山を降り、歩道から少し降りた人目につかない川原に靴を脱ぎ、足を冷たい水に浸す。
珍しいのか小魚が寄りついて、足をつつく。


しばらく魚と戯れてから川をあがって、元来た道に戻った。


入道雲は、姿を消していた。



おまけ ↓ 森のアルバム
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