独りとぼとぼと歩く、深夜の帰り道
どこからともなく漂ってくる金木犀の香り
辺りを見回せば..
街頭の下に浮かび上がる、オレンジ色の小さな花
香りのヴェールの中で深く息を吸い込む。
闇の中に漂うその香りは、遠い切ない記憶に連なっている。
わたしの篭は 空っぽで
花に気付きもしなかった。ただときどき 悲しさがわたしの上に来て
わたしは 夢からふと目覚め
南風の中に妙な香りの
あまい跡を 感じた。そのほのかな 甘さが
わたしの心をあこがれで痛めた。
(中略)その時 わたしは知らなかった その花が
そんなに近くにあり
又わたしのものであることを。
この上ないやさしさが 花開いたのは
わたしの心の底であったことを。
タゴール詩集『ギタンジャリ』より