青空を映す心

なにげなくカメラにおさめた、雨上がりの石畳。
空は晴れ渡り、この小さな路地にも間もなく陽光が射す。
石畳のくぼみにできた水たまりは蒸発して消える。
刹那のいのち。
しかし、その小さな水面には、青空が映っている。
宇宙の時間に比べたら、人の命もまた刹那である。
その瞬時に、何を感じ何を為していけるのか...
この水たまりのように、まっすぐに上を向いて
青空を映し出すような心を持っていきたい。

過去も現在も、未来も、人間は生きて、悩んだり苦しんだり、愛したり憎んだりしながら、
やがて死んでゆき、忘れられてしまう。(中略)
人間の為したこと、為しつつあること、これから為すであろうことは、
すべて時間の経過のなかに、かき消されてしまう。
慥かなのは、自分がいま生きている、ということだ、生きていて、ものを考えたり、
悩んだり、苦しんだり、愛し合ったりすることができる、ということだ。
                        山本周五郎『山彦乙女』