強い精神

台風5号が九州南部に近づき、
伊勢地方も断続的な雨と強い風が吹いている。

昨日に続いて小林秀雄
イカリエンテが若き日に読んだ『モーツアルト
この中には「強い精神」という単語が繰り返し出てくる。

天才とは努力しうる才だ、というゲエテの有名な言葉は、殆ど理解されていない。
努力は凡才でもするからだである。然し、努力を要せず成功する場合には努力はしまい。
彼には、いつもそうあって欲しいのである。天才はむしろ努力を発明する。
凡才が容易と見るところに、何故、天才は難問を見るということがしばしば起こるのか。
詮ずるところ、強い精神は、容易なることを嫌うからだということになろう。

強い精神にとっては、悪い環境も、やはり在るがままの環境であって、
そこに何一つ欠けている処も、不足しているものもありはしない。
不足な相手と戦えるわけがない。好もしい敵と戦って勝たぬ理由はない。
命の力には、外的偶然を内的必然と観ずる能力が備わっているものだ。

強い精神は容易なる事、安楽なることを嫌い、自ら困難に立ち向かっていく。
強い精神は、外的要因で起こったことさえも、自らにとって内なる必然と変えてしまう。
それは生命に本然的に備わっている力である。

幸福とは、物質的な充足や安楽な状態のことを言うのではない。
いかに悪い環境に放り出されようと、宿命に翻弄され打ちひしがれようとも...
決して負けない精神の強さ生命の強さ...それこそが崩れえぬ幸福なのである。

海面にのぞく岩の塊りは、繰り返し打ち寄せる波浪を砕きながら悠然と立っていた。